あらすじ・紹介
◯公演概要 「日本人」の輪郭が、今、かつてないほどに揺らいでいる。 加速する少子高齢化、国家の衰退、そして街に溢れる異国の言葉たち。私たちが抱く不安の根底にあるのは、単なるマナーの違いや治安への懸念ではない。それは、高い同質性を持った「日本」というフィクションが過去のものとなり、自らが依って立つものが変わっていくことへの恐れだ。 人間の条件が本作で挑むのは、日本人の精神性の深層流であるとされる「神道」を切り口とした、アイデンティティの再定義である。舞台は古墳時代、ヤマト王権が支配を広げていく上古の日本。太陽神・天照と、その鎮座地を探して旅する倭姫命の歩みを、他者との共生に揺れる現代の日本に重ねる。 この国において誰が「日本人」であり、誰が「他者」なのか。古代から続く「祀り(まつり)」の中に、異質なもの同士が衝突しながら混ざり合う姿を想像したい。楽器演奏を交えながら立ち上がる想像上の「まつり」の中で、私たちは「日本人」を再考し、変わりゆく世界を新たな感覚で見つめる。 ◯ あらすじ 第十代・崇神天皇の時代。宮中に祀られていた天照大神は、その強大すぎる神威ゆえに人々の暮らしを揺るがし始めていた。天皇の命を受けた皇女・倭姫命は、天照の御霊を抱き、彼女の安住の地を求めて終わりの見えない旅に出る。 笛や太鼓の音が響く中、一行が辿り着く先々で出会うのは、中央の理に従わない「まつろわぬ民」と、彼らが祀る土着の神々。大和の神と各地の神は、時に激しく衝突し、時に共鳴しながら、互いの境界を溶かしていく。天照は異邦の存在を飲み込み、倭姫は摩擦の先に生まれる「和合」の中に、自分の輪郭が姿を変えていくのを感じる。 各地を漂泊し、見知らぬ文化の風に吹かれ、自分たちが何者であるかという固い確信さえも削り取られていく旅。その終着地として彼女たちが選んだのは、五十鈴の川上、伊勢の地だった。なぜ、天照はそこに鎮まることを選んだのか。神話と政治が交錯する祝祭の果てに、倭姫は変わりゆく自らの魂の形を見つめる。